第1章で述べたように、本書の議論には確実性の階層がある。以下に本書の主要な命題を、その確実性の水準とともに一覧する。なお、各項目末尾に付した章番号は、その概念が定義・詳述されている章を指す(初出章が別である場合でも定義章を優先している)。

I. 証明(前提から論理的に成り立つこと)

前提が認められれば、結論は論理的必然として導かれる。確実性の最も高い水準である。ただし現実のシステムへの適用は、各定理が依拠する理想化条件や形式的仮定が成り立つ範囲に限られる。

II. 物理制約(既知の物理のもとで、現実の系に強く効く制約)

既知の物理法則は、現実の系が従わざるをえない境界条件を与える。証明には及ばないが、観測される範囲では極めて強固な拘束力を持つ。物理理論はより広い理論に置き換えられうるが(ニュートン力学が相対論に包摂されたように)、既存の適用範囲ではそのまま制約として残り続ける。

III. 実験・観測(条件を限って、実際に確かめられていること)

経験的に観察されたことに基づく主張である。観測の精度と再現性が高いほど確実性が高まる。ただし観測範囲を超えた領域や、条件が変化した状況で同じ振る舞いが続く保証はない。

IV. 論証(証明・物理制約・実験観測を組み合わせて引き出される推論。前提の妥当性以上には強くなれない)

単一の根拠ではなく、複数の根拠を組み合わせて引き出される推論である。論理が前提から正しく導かれていても、前提の経験的妥当性に応じて結論の確実性は変動する。複数の独立な根拠が同じ方向を指すとき、議論の重みは質的に増す。

V. 予測・予想(上位の確実性を持つ根拠をもとに将来を見通すもの。外れても不思議はない)

上位の水準(I〜IV)の根拠をもとに将来を見通す主張である。階層の中で最も弱い水準にあり、新しい情報や条件変化によって容易に覆りうる。本書では予測の根拠と不確実性の幅をできる限り明示する。

なお、第12章の政策提言は規範的命題であり、上記の階層(記述的命題のための階層)とは別の種類の主張として読まれるべきものである。本書では政策提言を確実性の階層には含めない。